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■No.054 : あの1球 (2009/05/01)

1983年の巨人対西武の第5戦。
この日本シリーズは7戦中3戦がサヨナラゲームという接戦に次ぐ接戦で、
素晴らしいゲームだった。当時、私は18歳で高校生だったが、
この試合の「あの1球」はよく覚えている。

ドラフト外で入団し、エリート江川とエースの座を最後まで争った西本聖。
西本氏は、日本シリーズで29イニング無失点という、
今だに破られない記録をその時に作った。
西本は、伝家の宝刀と言われた「シュート」で西武打線を苦しめた。

西武の攻撃の4回、先頭は4番の田淵。投げた球はすべてシュートだった。
あの投球は圧巻だった・・。田淵もシュートしか狙っていない。
バッターもシュートが来るとわかっているのだが、バットの芯に当たらず、ファールを繰り返す・・・
まさに、グランドで決闘をしているようだった。

今の時代に、あのような投球はする投手は先ずいないだろう。
相手に読まれているいるボールを「自信があるから」という理由で投げ込む人がいるだろうか?

ファールで粘られて、カウント2-1か2-2あたりで一球だけ投げた「外角球のカーブ」。
野球を知るものであれば誰もが「田淵はインコースのシュートしか狙っていない」のは明らかで、
外角へカーブを投げ込めば勝てる、と思うに決まっている。

しかし、そのカーブは、誰が見ても完全なボール。
キャッチャーのサインを嫌ったように見えた。
「決闘の最中に水を差すな」と言わんばかりのドロンとしたカーブで、
キャッチャーのサインには従ったが、「仕留めるのはシュートだ」という感じのボール球だった。
もちろん、田淵はそのカーブを振らずに、さらに自信を持ってシュートを待つ。
その時田淵はプライドを捨てて、初めてバットを短く持ったそうだ。
次の瞬間、そのシュートを打ち砕いて、西武球場のレフトポール際に見事なホームランを放った。

私が気になっていたのは、あの「カーブ」だ。あれは、キャッチャーのサインを嫌って
わざとボールにしたのか、それとも決めにいったのが、ボールになってしまったのか?

その真相を明らかにする機会を、26年経って頂けたので聞いてしまった。

先日、当社のお客様の明屋書店様の70周年記念公演で、愛媛県出身ということで
西本聖氏とスポーツジャーナリストの二宮清純氏の対談が催された。
私は最後に調子に乗って、500人以上はいるであろう聴衆の中から
「あの一球」について質問をしてしまった(笑)

西本氏の回答は、「決めにいったカーブ」ということだった。
「あの時、私は日本シリーズで29イニング無失点という記録を伸ばしている最中で
あそこで田淵さんに打たれなければ、30イニングだった。カーブは決めにいったが
外れてしまったのだと思う。ただ、田淵さんは、プライドを捨ててバットを短く持って
いたというが、それに気がついていなかった。あそこで、田淵さんがプライドを捨てて
くれなければ30イニングの無失点記録はそのまま続いた。」
と冗談ぽく話してくれた。

西本氏は、1987年にロッテから中日に移籍してきた三冠王、
落合博満氏との最初の対戦の時も、4打席すべてシュートを投げた。
その結果、1本だけはセンター前にヒットを打たれたものの
4打数1安打と封じ込め、自身も完封勝利を収めている。

日本シリーズでご本人は、決めにいったボールと言ったが、
私の中では、今だに「外した球」である。
今もこんな試合があれば、プロ野球ももっと面白いような気がする。

自分の決め球、必殺技、なんでもいい、こんな自信を持って戦えれば、
死んでも本望のような気がする。

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